サステナビリティ情報開示の世界的進展‐日本企業は何を準備すべきか?

2022年はサステナビリティ報告が世界各地で進展した年でした。日本企業は動向を注視し、これまでのサステナビリティ報告を進化させる必要があります。

by Hiromi Tasaki

1. サステナビリティ報告で一歩先を行くEU

2022年は欧州員会と欧州議会にとって、待望の企業のサステナビリティ報告指令(CSRD)が発効された重要なマイルストーンとなる年でした。CSRDは、現在施行されている欧州非財務情報開示指令(NFRD)と比較して、予想される対象企業の数がおよそ5倍になると言われており、在欧法人を持つ日本企業にも適用の可能性が広がります。適用時期は企業のカテゴリ(例、NFRD適用の大企業、NFRD適用外の大企業など)により異なりますが、NFRD適用企業への適用が最も早く、2024年1月1日から適用されます。
またNFRDでは拘束力のないガイドラインに基づく報告が推奨されていましたが、CSRDは拘束力ある開示基準に準拠することを要求しており、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)案を公表しています。

ESRSは欧州財務報告諮問グループ(EFRFG)が草案を作成し、今年6月の制定が予定されています。ESRS開示基準には、環境、社会、ガバナンス分野で項目が規定されており、企業はそれぞれの項目について、基準に従った情報開示をしなければなりません。当然のことながら、これらの分野のコンプライアンスデータは、開示の基盤になると考えられます。

さらに画期的なのは、この指令がEU全体で監査(保証)義務を導入することです。つまり、報告されたサステナビリティ情報は、認定された独立監査人または審査者によって認証され、正確で信頼性あるものであると保証する義務が初めて課されるのです。

このように欧州では、サステナビリティ報告に関し明確なロードマップが確立しており、引き続き世界のサステナビリティ・ESG報告をけん引すると予想されます。

2. 米国は証券取引委員会(SEC)の活動が活発化

米国では、昨年証券取引委員会(SEC)が気候関連情報の開示規則を提案しました。この開示規則案は、株式公開企業にSECへの登録届と年次報告の中で気候関連情報を標準化された様式で開示することを要求する内容となっています。開示には、ビジネスに影響を与える気候関連のリスクに関連する情報、会社の温室効果ガス直接排出と管理外の間接的な排出の開示も含まれます。つまりスコープ3排出も含まれる提案となっています。

当初、SECは昨年10月までに規則を完成させる予定でしたが、達成できませんでした。遅延の理由は、主に2つあると言われており、一つはパブリックコメントの量の多さ、そしてもう一つは、ウエストバージニア州対EPAの最高裁判所の決定が影響しているようです。ウエストバージニア州を含む複数の州がオバマ政権で導入されたクリーンパワープラン規制に反対してEPAを提訴しました。これを受け2016年に最高裁からクリーンパワープランの一時停止が命令されています。つまり気候関連の施策は、米国では一部の州や企業から根強い反対があり、時間がかかることが予想されます。

このような状況に関わらず、SEC は、執行部門内に気候および ESG タスク フォースを立ち上げ、気候や ESG 関連の開示における不正行為を積極的に特定するためのイニシアチブを開始しました。 タスクフォースは、高度なデータ分析ツールを使用して登録会社全体の情報を深堀して評価し、企業の気候リスクの開示における重大なギャップや虚偽表示を含む違反を特定するなどの活動をしています。

米国において、SEC開示規則案の採択時期や内容はまだ不透明ですが、一つ言えるのは、米国でも投資家や消費者を中心として、気候を含むサステナビリティ情報の開示と正確性を求める声は大きくなっており、その方向に進むことが予想されます。

3. アジアでも開示が進行

欧米以外の地域、アジア諸国はどうでしょうか。

中国は、「主要な汚染物排出源」に分類された企業に、毎年環境情報報告書を提出することを義務付けています。 昨年2月から、この報告義務対象を拡大しています。 環境報告には、炭素排出、特に排出量、排出枠とそれに対する実績・精算、およびGHG排出量の計算に使用されたガイドラインまたは手法を含めなければなりません。 国は、企業が環境情報開示をするための基準も発表しています。

同様に、日本でも金融庁のワーキンググループが、企業が年次有価証券報告書においてサステナビリティに関連する非財務情報を開示することを提言しています。この 報告義務を採択する時期はまだ議論中ですが、上場企業は今後数年以内にESG報告が義務付けられることが予想されます。

インドでは、ESG報告が特定の大企業に既に義務付けられています。 時価総額上位1000社の上場企業は、2022年会計年度からの詳細なESG開示を含む事業責任とサステナビリティに関するレポートを提出する必要があります。対象企業以外はサステナビリティ報告は必須ではありませんが、自発的に提出することができます。

4. グローバル開示に向けた準備

上記に見たように、気候を含むサステナビリティ情報開示規制はグローバルに進展しています。多くの日本企業はこれまで自主的にサステナビリティ報告書を開示してきました。そこで培ったデータやノウハウは確実に強制的な開示に活用できると考えられます。しかしながら、それだけでは十分ではありません。今後は、法令の求める基準にしたがった開示が必要になります。各国で異なる基準に都度対応するには、膨大な時間とコストがかかります。グローバル企業にあっては、本社主導でグローバルに一貫性あるガバナンスとデータ収集、分析体制の確立が望まれます。

心に留めておくべきもう1つの要因は、ESGとサステナビリティ報告要件と共鳴して反グリーンウォッシング規制も増加しているということです。反グリーンウォッシング規制により、ますます明確で検証可能な投資適格データを確立することが要求されるようになります。 EHSコンプライアンスデータが財務データと同じレベルで精査される時期が近付いていると想定されます。 如何にサステナビリティ情報をきれいに整えても、結局のところ、EHSやESGの領域で違反があれば、経済的にも社会的にもインパクトが大きく、ビジネス上の重大なリスクになります。裏を返せば、この分野で秀でることはビジネス上のチャンスにつながると言えます。

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