各国のEHS規制変更――世界にみるEHSの進化の現状

「レス・イズ・モア―合理化による効果の拡大」による重要規制の変更――世界各地でみられるEHSコンプライアンス強化を目指した法律の合理化

by Nina Janjetović, Flore Moens, Sunita Paudyal

*本記事は、2021年7月発行英語レポートの抄訳

世界では規制変更の波が渦巻いています。それはホワイトハウスの新政権から出されるものだけではありません。 バイデン政権が多くの注目を集めている間に、他の多くの地域では、規制制度が根底から変更されています。 たとえ自分の会社の施設から遠く離れた場所での出来事であっても、ますます小さくなる世界(加えてますます緊密となるバリューチェーン)においては、これらの進展がビジネスに大きな変化をもたらす可能性があります。ここではEHSコンプライアンスをめぐり世界で何が起きているかをみてみましょう。

インドにおける規制変更――現在のEHSのニーズに対応するための統合

ヨーロッパや米国等のより厳格な法律に合わせるために、インドは、その労働安全衛生(OHS)、化学物質および環境に関する規制の見直しを計画しています。 そのコンセプトは「レス・イズ・モア(合理化による効果の拡大)」、すなわち、より進歩的な、少数の法律により、より適切に規制を行おうとするものです。インドではREACH規則のような化学物質管理の進展については、未だにほとんどが未公表ですが(環境規制の変更は未だ推測の域)、健康と安全の分野では、すでに大きな一歩が踏み出されました。

今日、急速に進展する産業革命と大規模な労働力に対応する必要性を満たすため、インドでは古い法律を統合して、新しい規制導入を推進しています。 一例として、労働安全衛生法(労安法)により、時代遅れで保護対象が限定的な13の現行労働安全衛生関連の法令が統合され、廃止されます。

配慮義務に大きな変更を加えることにより、労安法では、その対象範囲が現行法よりも拡大されました。統合された新たな法律では、工場労働者、建設労働者、および港湾労働者のみを保護対象とした旧法が変更され、すべての職種の従業員を網羅しています。 労安法により、中央政府は、個人用保護具や機械の安全性など、同法のいくつかの条項に関する技術的なEHS基準を策定、採用することを求められています。インドで事業を行う場合は、より多くの労働者を対象として、技術的かつより厳格な新しいEHS要件を遵守する必要があります。 また、この新生労安法では、国内の全ての労働者を対象とした定期的医療ケアに関する規定を含めることにより、健康と安全に必要な保護を強化しています。 労安法はすでに採択されましたが、発効日はまだ公表されていません。

オランダでは規制変更によりサステナビリティの取組みを合理化

他のEU加盟国が新型コロナ危機からの復興計画において環境関連の政策とイニシアチブを増加させる中、オランダは、気候中立という目標を達成するための鍵となる統合に注力しています。 オランダは、既存の環境規制の「近代化、整合化、簡素化」を目的として、環境計画法を導入しました。

将来を見据えたこの法律は、4年前に公布され、2022年7月1日に発効する予定となっています。環境計画法の施行は、オランダがこれまでに実施した中で最も包括的な法令の再構築であり、26の法律を1つに統合します。環境計画法には、水、空気、土壌、自然、インフラおよび空間計画に関する規制が含まれ、オランダがより広範な意味で生活環境保護の取組みを強化する上で役立ちます。この変更により、急速に変化し、厳しさを増す気候目標を達成するための国の法的枠組みが整備されますが、一方で、企業のコンプライアンス管理におけるプロセス、ツールおよび報告様式にも影響が生じることが予想されます。

ロシア連邦では規制ギロチンによる徹底した見直しが続く

組織に変化をもたらすため、公式に商標登録され、大々的に宣伝されている「規制ギロチン(Regulatory Guillotine TM)」は、法規制の徹底的な見直しというアプローチを採用しています。 2019年1月、メドヴェージェフ首相が最初に、事業者を取り締まる時代遅れの法的要件を排除するために「ギロチン」を提案しました。具体的には、長年見直しや改正が行われていない規制の廃止を2021年1月1日までに実施することを掲げています。この改革は、地域の経済的地位を強化するために、法制度を合理化し、組織に対して明確で正確な法的要件を義務付ける新たなシステムを制定し、それにより過度の行政負担を取り除くことを目標としています。

2021年の初めまでに、ソビエト連邦時代に採用された時代遅れの規制を含む約20,000件もの法令が廃止されました。「ギロチン」改革の基本理念を象徴するのは、「ロシア連邦の州および地方自治体の管理に関する連邦法」(2021年7月1日施行)です。これにより、ロシアは「査察と処罰」のシステムからリスク指向のシステムに移行します。 そのために同法では、実施された査察や記録された違反の数、課された罰金により規制監督機関を評価することを明文で禁止し、それに替えて、企業に対する要件の通知を主眼として定めています。 改革の「終了日」を設定していないため、規制の変更は、2021年を通して続く可能性があります。

世界の規制変更による波及効果

上記のような法制度の改革は、現実世界のニーズに対応する法的義務を再構成することにより、環境衛生安全の保護を強化する態勢を整えています。自社が現在これらの地域のいずれかで事業を行っていなくとも、このような規制の変更はグローバルなEHSコンプライアンスに対する共通の方向性を示すものだといえます。したがって、最終的には、各社のビジネスに直接的あるいは間接的な影響が生じます。これらの地域内に拠点がある場合は、適用されうる法的要件が法改正によって更新されているか確認することが推奨されます。拠点がない場合でも、法制度の変更がバリューチェーンにもたらす波及効果、さらには、これらの規制変更戦略が自社の業界のEHSコンプライアンスに与える影響に注目する必要があります。