注目すべき3つの重要な環境法について

焦点となる3つの重要な環境法

グローバルビジネスにおいて法令順守をする上で着目すべき大きな変化とは

*本記事は、2021年9月発行英語レポートの抄訳

世界の環境法令を見渡すと、注目に値する極めて重要な変化がいくつかみられます。本稿では特に重要と考えられる3つの規制を取り上げます。当然ながら、重要な環境法は3つだけではありません。しかし、以下に述べる3つの主要な規制により、EHS(環境・衛生・労働安全)専門家の業務は変化しつつあります。グローバル企業の各拠点はこれらの規制に従って操業する必要があります

1 欧州気候法――将来的に多くの新規制につながる可能性も

まず1つ目は、2021年7月29日に発効した欧州気候法(European Climate Law)です。 この気候法は、欧州グリーンディールにより提示された2050年までにクライメイト・ニュートラル(気候中立)を目指すという目標達成のために制定されたものです。これには、国内の正味温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で最低55%削減する目標が当然含まれます。本法の制定により、政治的約束が法的義務に変換されたことを意味します。

欧州気候法は企業に直接法的義務を課すものではありませんが、個々の加盟国が講じる厳格な対策により、企業は直ちに影響を受ける可能性があります。 すなわち、EU域内で事業を行う企業は、以下のような活動を要求する新規または改正された規制の対象となることが予測されます。

・環境に優しい技術への投資

・排出削減に関する進捗状況の報告および追跡

・産業のイノベーション支援

・建物のエネルギー効率向上

・強化されたグローバル環境基準の適合

司法管轄区域ごとに施行方法は異なるかもしれませんが、近い将来、これらの新しい対策が実施されると予想されます。そのため、企業が拠点を置く加盟国がどのように対策を進めるか、引き続き見守っていく必要があります

2 米国TSCAの対象範囲拡大に注目

2つ目は米国における有害物質規制法(TSCA)の改正です。 TSCAは最近、水質浄化法(Clean Water Act)とともに改正され、バイデン政権となってからは、いっそう多くの課題を取り扱っています。

TSCAの下で、化学物質(または化学物質を含む製品)のメーカーは、対象物質に関する規制内容を把握する必要があり、 そのためには、TSCAインベントリー(既存化学物質リスト)を参照します。 たとえば、企業がリストに掲載された化学物質を扱っている場合、市場での販売に先立ち、定められた行政機関に届出を行わなければならない等、特定の規制要件に従う必要があります。

米国環境保護庁(EPA)により特定のプロセスが健康または環境に対し不当なリスクをもたらすと判定されたものについて、TSCAで要件が定められており、要件には、製造、加工、商取引における流通、使用および廃棄の各過程が含まれます。

現在、EPAは化学物質のあらゆる使用条件に関して包括的な見直しを行っており、化学物質に対する規制がより厳しくなる可能性があります。そのため、近々さらに多くの化学物質がTSCAの対象範囲に含まれることが予想されます

3 中国の廃棄物管理――固形廃棄物環境汚染防止法を大幅に改正

中国の揮発性有機化合物(VOC)排出に対する規制強化は大きな注目を集めてきましたが、その他のEHS分野においても規制強化が進められています。固形廃棄物環境汚染防止法(固形廃棄物法)は、中国における固形廃棄物管理の基盤となるものです。固形廃棄物法は1995年以来、合理的な使用、リサイクルおよびクリーンな生産等、中国の循環型経済政策に関する最も重要な法律であり、現在ではさらに強化されてきています。

中国は環境汚染の改善を図るため、過去10年間で、固形廃棄物に関する政策を大幅に変更してきました。 現在では、世界中からの固形廃棄物の輸入が禁止されています。さらに、中国当局は法制度の抜け穴に対する規制も強化しました。2020年の改正固形廃棄物法により、電気・電子製品およびそれらの部品と、使い捨てプラスチックに対して拡大生産者責任スキームが導入され、企業の責任が強化されました。さらに同改正法では、医療廃棄物、医薬品廃棄物、廃有機溶剤および廃鉱油を含む危険廃棄物の管理と廃棄にもスポットライトが当てられています

重要な環境法とグローバルビジネス

世界各地で操業するグローバル企業は、より良く、より明るく、よりクリーンな社会の形成を通して、未来に対する義務を共有していると言えます。そして、企業がその目的を達成できるよう、規制も進化し続けています。上記の重要な3つの環境法は必ず押さえておくべきですが、重要な法律は他にも多く存在します。

まずはこの3つの重要な法令に関して、規制の対象となる地域で自社の拠点が活動している場合、現状を確認してください。次に、事業を行っている司法管轄区域内の空気、水、化学物質、廃棄物および有害物質に関する全ての法律に基づいて、適合性の調査を実施してください。その際、国境を越えて適用されるEU指令などの国際法も必ず考慮に入れる必要があります。この3つの重要な法令を最初の取っ掛かりとして、企業は各拠点が規制対象となる地域に関する状況把握を行うことにより、将来的な義務に備え、クライメート・ニュートラルの未来を可能にするためのスタート地点に立つことができます。