CO2排出削減の動向を注視

CO2排出削減における動向把握の重要性

米国のキャップ・アンド・トレード・プログラムの現状と仕組み

by Twisha Balasubramanian

*本記事は、2021年9月発行英語レポートの抄訳

米国では、連邦政府レベルで規制に裏打ちされたキャップ・アンド・トレード・プログラムはありませんが、CO2排出量削減の目標を段階的に(または州ごとに)進めています。しかし、ビジネスにおいても同様にCO2排出量削減を進めることが可能でしょうか。温室効果ガス(GHG)排出量の削減に対する共通の目標は明確に示されていますが、米国の企業は、その目標を達成するためのプログラムが不明確だと感じています。本稿では、米国内においてCO2排出管理のために実施されている施策およびその進捗状況を説明していきます。

キャップ・アンド・トレードは州ごとに実施、市場での取引が可能

CO2排出量削減については、数多くの報告が発表され、結果も次々に伝えられ、基準年から何パーセントダウンなど削減目標は上がり続けています。ごく最近では、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表したレポート「気候変動2021:自然科学的根拠」が、CO2およびその他のGHG排出量の「強力かつ持続的な」削減を求めています。「キャップ・アンド・トレード」としても知られるCO2排出量取引は、環境影響を改善する役割を支援するソリューションとして、一部の米国企業に採用されています。この制度は、2つの要素――汚染物質の制限(すなわち上限=cap)と取引可能な排出許容量――から構成されています。制限は意味が明瞭ですが、議論の尽きない許容量についてはさらに説明を要する場合が多いでしょう。

キャップ・アンド・トレードの仕組み

欧州連合域内排出量取引制度と同様、米国のキャップ・アンド・トレードにおいても、指定地域全体の排出上限値が環境目標として設定されます。次に、この地域全体の上限値を、企業が自社の排出量をカバーするため、排出量割当てを受け取るかまたはオークションで購入できる排出枠に分割します。企業が購入枠より多く排出した場合は罰金が科せられます。企業は、将来に備えて排出枠を確保することができ、排出権市場で他の組織と取引することも可能です

実施地域について

現時点では、CO2排出量に関する連邦政府主体のキャップ・アンド・トレード・プログラムは米国に存在しません。州ごとの制度は存在しますが、参加は一部の業界に限られています。連邦政府の州間大気汚染規則や環境保護庁の酸性雨プログラムといった、国全体を対象とする大気汚染関連規制はあ

りますが、これらは二酸化硫黄(SO2)と窒素酸化物(NOX)の削減を主眼とするものです。CO2排出削減に関して企業の拠点に課せられる法的義務は、州ごとに調べる必要があります

連邦政府の規制によらずCO2排出量の削減を推進

温室効果ガスを削減するために、市場ベースのアプローチを採用している州はいくつか存在し、主要産業の汚染者がその排出量を削減するためのインセンティブとしてカーボンプライスを設定している州もあります。カリフォルニア州は最も積極的に取り組んでいる州であり、CO2に特化したキャップ・アンド・トレード・プログラムを実施している唯一の州です

カリフォルニア州におけるCO2排出量削減

中国、EU、韓国に次ぐ世界第4位の規模のカリフォルニア州のプログラムは、2020年までにGHG排出量を85%削減することを目標として2013年に開始されました。このプログラムは当初、1年間に25,000トン以上のCO2相当を排出する発電所と工場に適用されましたが、現在では、燃料供給業者にも適用されています。毎年、プログラム全体のGHG排出量の上限が3%ずつ減少し、2021年~2030年にはさらに5%減少するように計画されています。

州政府のこのような気候政策によってCO2排出量は着実に減少しています。プログラムの開始から2018年までに、カリフォルニア州で上限規制対象となる発生源からの排出量は10%減少しましたが、州経済への悪影響はみられませんでした。このプログラムは、西部気候イニシアティブ(WCI)を通じて2013年からカナダのケベック州と連携しており、各国が協力することでCO2排出量取引プログラムがさらに効果的に機能することを示しています。

州境を越えたCO2排出量の削減が成功のカギ

カリフォルニア州の成功は、今後起こることの先駆けとみることができます。ワシントン州は、まもなく独自のキャップ・アンド・トレード・プログラム(2050年までのGHG排出量95%削減(2005年基準)を公約)を導入してカリフォルニア州に追随する予定です。さらに多くの州が独自のキャップ・アンド・トレード・プログラムを策定したり、米国東部の地域温室効果ガスイニシアティブ(RGGI)など既存のプログラムを利用したりすることが期待されます

RGGIは州境を越えたキャップ・アンド・トレードを主導

地域温室効果ガスイニシアティブ(RGGI)は、電力セクターの企業にCO2排出枠を販売しています。 その目標は、グリーンエネルギー経済のイノベーションを促進し、雇用を創出することであり、それは実際に機能しています。CO2のみ、かつ電力業界のみを対象としていますが、RGGIはキャップ・アンド・トレード・プログラムが複数の州にまたがってうまく機能することを示しています。

RGGIは、25メガワット超の発電出力を有する化石燃料発電所に、年間に排出されるCO21トンにつき排出枠の獲得を義務付けています。地域内の発電所は、四半期ごとのオークション、地域内の他の排出者、またはカーボン・オフセット・プロジェクトから排出枠を購入することによってこのプログラ

ムに参加することができます。RGGIは、2009年~2017年の間に、これらのオークション収益により47億ドルの経済的純利益を上げたと発表しています。

CO2排出量の削減を継続的に推進する政策は増加しており、より有利なキャップ・アンド・トレードを求めて州議会に陳情することもできます。プログラムが戦略的であればあるほど、産業活動におけるCO2排出削減は達成が容易になり、企業はこのプロセスからさらに多くの利益を得ることができます

自社におけるCO2排出削減目標の実現

企業にとってCO2排出量の削減がかつてないほど重要になる一方で、一体どのように削減すべきかは、具体的に明確になっているわけではありません。しかしながら、会社が削減に貢献する方法がなく行き詰まりを感じたとしても、自社が踏み出す小さな一歩が、世界の気候変動目標の前進につながることを認識し、出来るところから始めることが肝要です。

事業を通じてCO2排出量削減を実現しようとする場合、まず、自分の立ち位置から始めてください。オフセットを試みる前に、排出量削減のために変更できることはないかを確認します。事業を行う司法管轄区域内の全ての大気規制を完全に遵守していますか。クリーンエネルギー源の活用、またはエネルギーレジリエンスを強化した経営を目指してインフラを調整することは可能でしょうか。その上で、CO2排出権取引またはCO2回収・貯留システムなど、自社で利用できる方向を検討してください。また、こうしたビジネスを行える場所がないという場合は、局面打開のために州議会に陳情するなど、チャンスを自ら作り出す行動も視野に入れることが期待されます。