EHSコンプライアンス監査の有効な活用法

ESG投資や強制的なサステナビリティ報告制度が各地で広まっています。企業はこれまで以上に確固としたEHSコンプライアンスのエビデンスが求められるようになるでしょう。EHSコンプライアンス監査はそのような際の強力な資料になりますが、それだけではありません。外部専門家を用いたコンプライアンス監査をうまく活用すれば、企業のEHSパフォーマンスの大幅な向上が望めます。

by Hiromi Tasaki

EHSコンプライアンス監査は既に多くの企業で実施されています。ISO環境マネジメントシステムや労働安全衛生マネジメントシステムを運用している企業では、内部監査の一部として順守評価を行っていることでしょう。また、自社基準に焦点を当てた監査を本社が拠点に対し、定期的に実施している企業も多くあります。そして中には外部コンサルタント等を採用したコンプライアンス監査を実施する企業もあります。外部専門家を雇うには費用がかかりますし、グローバル企業の場合、全拠点で実施するのはEHS部門にとって大変な労力です。しかしながら、多くのESG評価で優れた大企業が外部専門家を活用したコンプライアンス監査を長年にわたり実施しているのは何故でしょうか。これらの企業では、外部専門家によるコンプライアンス監査をEHSプログラムの中心に据え、監査をうまく活用して、企業価値の向上に役立てています。ここでは、外部専門家を活用したEHSコンプライアンス監査についてその有効な活用方法を3点説明します。

新しい視点で改善点を発見する

一つ目の有効な点は、ずばり「内部にない視点」の登用です。拠点では日々EHS担当者が誠実に業務を行っており、遵法についても「できていると思う」、「やっているはず」で対応しています。過去から踏襲した管理手順があり、当たり前のこととして継続していると、実は法的に問題がある活動が見過ごされがちです。実際、Enhesaでは現地監査に行く際、多くの場合事前に拠点にセルフチェックをお願いしますが、セルフチェックの回答は大抵満点です。しかしながら、Enhesaの監査チームが現地に到着すると、、、やはり満点ということはまずありません。

外部の視点を取り入れると、法令解釈の誤りや、ちょっとした抜け漏れ、最新の法令更新への未対応などが特定されます。また経験豊富な外部専門家は多くの企業の拠点を経験しているため、法的に違反とは言い切れないが、改善が望まれる事項(Enhesaではベストマネジメントプラクティス(BMP)と呼んでいます。)も特定し、改善を推奨することができます。新しい視点を取り入れると、マンネリ化しがちな内部監査の手法の見直しにもつながります。

法令の最新動向への対応が確認できる

二つ目は法令の更新に効果的に対応でき、その記録が残せるということです。世界的にEHS法令は改正や新設が激しい分野です。Enhesaの保有する法的要求事項のデータベースでは、2019年~2022年で、要求事項の数が35%増加し、約24万に到達しています。各拠点で改正や新設の都度、内容と適用性を確認し、遵法対応をしなければなりません。専門のEHSスタッフがいないような拠点ではこれは大変な作業です。外部専門家が入って確認することにより、自社の対応が適切か否か、どのような状態が望ましいのかが明らかになります。

 

Enhesaの監査では、通常Enhesaが作成するチェックシートを使って拠点にセルフチェックをしてもらいます。監査員は同じシートを使って現地監査を実施します。拠点側は一度自分たちが確認した事項を監査員が確認するため、齟齬がある場合、「この新しい法的要求事項について、自分たちはこれで良いと解釈したけど、実際は足りなかったな」と理解が容易になります。つまり拠点スタッフに対するトレーニング効果も期待できます。Enhesaでは、このチェックシートの内容をオンラインでも提供しており、法令の改正に合わせて、内容を更新します。拠点で定期的にセルフチェックをし、数年に1度外部監査員の確認を入れることで、拠点スタッフのEHS法令に対する理解度が飛躍的に向上している企業が何社もあります。

本社による全体把握と向上プログラム

3つ目は、コンプライアンス監査の恩恵を受けるのは、改善機会が特定された拠点だけではありません。むしろ本社こそEHSコンプライアンス監査を有効に活用すべきです。本社にしかできない活動がたくさんあります。各拠点のコンプライアンスの状況が可視化されるため、本社は自社にとって重要な分析ができるようになります。Enhesaでは、オンライン上で拠点の監査結果を一覧できるツールを提供しています。

 

 

どの国・地域で指摘が多くリスクが高いのか、事業内容による傾向はあるのか、逆に拠点間で共有すべき好事例はあるのか等、企業のニーズに応じた様々な分析が可能です。そして分析に基づき、拠点を越えた対策が立案できるのも本社しかありません。例えばより安全な機器の導入、より環境負荷の低い原料の購入、弱点分野に対する集中トレーニングプログラムの開発など、全社的で本質的なプログラムに力を入れることができます。また、機器の更新など予算化が必要な事案も特定できます。このような監査プログラムで特定すれば投資が計画できますが、規制当局からの査察で摘発された場合は、予期せぬ出費となります。

本社が主導して監査プログラムを実施し、拠点に建設的なフィードバックを行うことにより、拠点スタッフのモーティベーションの向上にもつながります。計画された一貫性ある監査プログラムを継続することにより、企業全体のパフォーマンス向上が期待できます。

継続的なコンプライアンス管理

EHSコンプライアンス監査は、企業のコンプライアンス管理において「改善の機会を特定する」素晴らしいツールです。しかしながら、監査はその時のスナップ写真です。改善点が特定されたら、確実にフォローして是正を完了することがより重要なのは言うまでもありません。またEHS法令は頻繁に改正されます。監査時点で遵法していた事項が法令変更により、対応を迫られることがあります。一方、製造プロセスや原料、サプライヤーの変更など拠点側の変更もあります。このような外的及び内的変更に対応できるよう、コンプライアンスを日常的に管理できる仕組みに落とし込むことが望まれます。定期的なセルフチェックを含む日常的なコンプライアンス管理と数年に1度の外部専門家による監査で効果的なEHSコンプライアンスプログラムを運用することができます。