EHSコーポレートレポーティングを活用して コンプライアンスを強化―4つのポイント

EHSデータの開示を法的に求める国や地域が増加しています。EHSデータの中でもコンプライアンスに関するコーポレートレポートは、長期的にコンプライアンスを維持するための洞察と指標を提供します。

Taylor Murphy

by Taylor Murphy

*本記事は、2021年11月発行英語レポートを元に田崎裕美により加筆。

 

多くの企業がサステナビリティレポート等で、自社のEHS情報を開示しています。グローバル企業は、毎年エネルギー使用量、CO2排出量、廃棄物発生量などのEHSデータを各拠点から収集し、集計・分析を毎年行っています。しかし、コンプライアンスに関するデータとなると、多くの疑問点が存在するのが実情ではないでしょうか。個々の拠点は、変更される法令を随時追跡し、対応しているか?また拠点は、法的要件がどのように適用されるかを理解しているか?コンプライアンスの状況は、必要な頻度で評価されているか?ある国・地域は他の国より厳格な管理が必要か?継続的なコンプライアンスを確保するためには、適切なEHSコンプライアンスデータを活用する必要があります。リスクの最小化からリソースの最大化まで、コーポレートレポートを使用してEHSコンプライアンス管理を強化する4つの視点をご紹介します。本稿では、コーポレートレポーティングとは、企業が全社レベルで一元的に情報を収集し、取りまとめるレポートを指します。

1.より正確な状況を把握する:コーポレートレポートを通して的確な洞察を得る

全社的に情報を統括する場合、「木を見て森を見ない」ことがしばしば起こります。コンプライアンス管理についても同様です。本社機能は、各拠点の細かい要求事項まで把握する必要はありませんが、全社的なコンプライアンスの動向を概観できる状態が望ましいと言えます。法規制の変更は、各国・地域で迅速に、頻繁に、異なる方法で行われます。その変更点を監視し、すべての拠点が法令に適合していることを確認するには、相当なリソースが必要となります。とはいえ、この活動は必須であり、自社のコンプライアンスを概観できない場合、重要な危険信号を見逃すリスクがあります。

それではどのような対応が効果的でしょうか?まず全社コーポレートレポーティングの仕組みの中で、各事業所・拠点がどのくらいの頻度で、法規制の変更点を確認し、自拠点への適用と適合を確認すべきか決定します。

また、本社で各拠点のコンプライアンスチェックや適合の状況が可視化されていることが重要です。各拠点のコンプライアンス活動の進捗状況や、適合内容を本社が見渡すことにより、全社的なリスクが浮かび上がったり、地域や事業部門ごとの弱み強みが明らかになったりします。EHSコンプアイアンスデータを全社的に統合することで、より洞察に富んだEHSコンプライアンス管理への扉が開かれます。

2.企業のリソースをより賢く活用

組織全体のコンプライアンスを総合的に把握することで、より優れた見地が得られます。つまり的外れな事柄に予算を費やする前に、リソースをどこに集中すべきかが明確になります。

たとえば、特定の地域の拠点が継続的にコンプライアンス違反となっている場合、原因分析をして、当該サイトの監査頻度を上げる、または、追加的なトレーニングを実施することが改善策として特定されたりします。あるいは、事業を行っているある国・地域で法令の変化が急激で遵法が簡単ではないと判断される場合、その分野の専任のEHS専門家を雇用するなどの対応が考えられます。

さらに、企業レベルでコンプライアンスを監視することは、課題の原因にスポットライトを当てます。たとえば、特定の地域で複数の拠点が規制される大気排出基準を満たさない場合、最も効率的な解決策は、地域レベルで技術的またはプロセスの問題として、対処することです。各拠点ごとに問題解決を図ろうとする前に、その問題が地域レベルであることを把握していれば、企業として時間とコストの2つの重要なリソースを節約できます。

3.事前の問題回避:リスクと脆弱性の軽減

企業レベルでコンプライアンスを監視することは、リスクの軽減にもつながります。EHSコンプライアンス情報を全社的に把握することにより、国を越えて企業が直面している問題を明確にし、事業を危険にさらす普遍的な問題に対応することができます。これは、特定地域の問題であることもあれば、分野の問題、例えば気候変動、大気排出や廃棄物管理などの可能性があります。このデータを効果的に使用することで、拠点が罰金を科される前や事故が発生する前に将来の問題を防ぐことができます。

現在のコンプライアンス違反に対する対策を特定するとともに、コーポレートレポートはコンプライアンスを維持するための手順の確立を容易にします。特に全社的な手順を策定または更新する必要がある場合に当てはまります。例えば、複数の地域の拠点で、トレーニング要件(例として安全管理者や衛生管理者が受けるべき教育訓練など)が、共通して法令に対して不十分と発覚した場合、それを埋めるために明確で効果的な全社プログラムが必要となります。企業レベルでトレーニングプログラムを継続的に見直し、改善するアプローチは、すべての拠点が会社の方針、強調点を理解し、社内にコンプライアンスを重視する文化を醸成し、同じ目標に向かって前進することを可能にします。

4.従業員に重要事項を示す:適切な指標でコンプライアンス文化を強化する

企業が用いる適切な指標は、従業員のマインドセットを確立する上で重要な役割を果たします。強力なEHSコーポレートレポーティングプログラムがある場合、健全で前向きな安全文化を推進する上で有利なスタートを切ることができます。

どのようなEHS情報を活用するかは企業それぞれですが、全社的なEHSコンプライアンスレポーティングは、従業員にコンプライアンス問題を考えさせるきっかけを与えます。EHSコンプライアンスデータにより、従業員の健康と安全性を向上させるべき分野が特定されるとそれに関連する認識を構築するための基盤が得られます。

どの要件を満たす必要があるか(およびその理由)について拠点とコミュニケーションを通して共通認識を確立すると、従業員は、課題を自分のものととらえ、イニシアティブの重要性を理解しやすくなります。EHSコンプライアンスコーポレートレポートは、従業員に求めていることを裏付ける確実なデータを提供し、部門やチームとして行うべきことの基準を設定します。

その情報を適切な全社トレーニングに落とし込めば、従業員は正しい手順に従うことで危険を回避する方法をより深く理解することができます。こういった取り組みは、会社の安全へのコミットメントを社外に証明する良い機会ともなります。それはすべて、EHSコンプライアンスコーポレートレポーティングで得られた情報と教訓によってもたらされます。コンプライアンス文化は、包括的な企業レベルでの実態把握と洞察、本社主導のプログラムなしには醸成されません。

コーポレートレポートでコンプライアンスの中核を強化

最後のポイントとして、企業レポートは、現在の問題を単に把握するツールとしないことが望まれます。EHSコンプライアンスデータには、各地域の法案や法令の施行など、法令動向も含めることにより、将来的にコンプライアンスを維持する上で、事業全体に深い視点を得ることができます。こういった企業レベルのデータ調査は、業務の改善、プログラムの開発、リソースのより効率的な使用に関する洞察をもたらします。そのような活動は、全社的にコンプライアンスレベルの向上と安全で健康な職場環境の達成につながります。