EHS Regulation Spotlight: 韓国における重大災害処罰法について

重大災害処罰法のビジネスへのインパクトについて解説。

*本記事は、2022年11月発行英語レポートの抄訳

by Rack Hyuck (Ray) Chung

EHS(環境、労働安全衛生)に関する 規制変更のうち、2022 年、最も頻繁に質問が寄せられているものの一つが、韓国の「重大災害処罰法(SAPA)」です。死亡者または重傷者の発生した労働災害に対する責任を誰が負うかという点に関し、韓国ではSAPAによって、責任を問われる者がこれまでより増加しました。この法律は、企業における説明責任の範囲を、法人としての企業それ自体のみならず、経営者や管理職といった個人にまで拡大しています。とはいえ、企業に必要な行動という点において、この法律は実際にどんな意味を持つのでしょうか。以下、SAPA について知っておくべきことの概要をみていきましょう。

SAPAが今年の特筆すべきEHS 規制に数えられる理由

2021 年 1 月 8 日、韓国の国会は SAPA を制定し、職場で発生した死亡事故または重傷事故に対して責任を有する事業主、経営者または法人としての企業に刑事責任が課されることとなりました。SAPA は主として、工場や建設現場などの作業現場で発生する事故に適用されますが、デスクワークの従業員がオフィス業務での過労、電気事故、転倒によって死亡または重傷を負った場合にも適用されます。このためSAPAは、EHS 規制と施行の厳格化を通じて説明責任の拡大を図るという広範な動向の中において、画期的な法律といえます。

SAPAの規定に従い、事業主または責任者たる管理職は次のことを行わなければなりません。

・重大事故を未然に防止するため、責任者の配置や予算配分等を含む安全衛生マネジメントシステムを確立し、実施する。

・重大事故の再発防止策を策定し、実施する。

・適用される安全衛生関連法に基づく義務を遵守し、当局の是正命令を履行するための管理措置を実施する。

・安全衛生マネジメントシステムの有効性と、管理職、従業員、請負業者が安全対策を遵守しているかについて、定期的な評価を行う。

さらにSAPAは上記の義務に加え、韓国の企業に対してより具体的な要件を定め、事故防止の責任に一層の重点を置いています。

 

SAPAの規定する事故防止要件

SAPAはその施行令により、重大な労働災害および公共災害を防止するための具体的な義務を定めています。

総じていえば、SAPA施行令は企業に対し、次のことを要求しています。

1) 目標と方針を策定する。およびそれらを実施する責任者を明確にする。

2) 事故対応計画および事故後計画を策定する。

3) これらの計画が遵守されているかを評価する。

4) その他政府からの要求事項を実施する。

より具体的には、重大な労働災害を防止するため、SAPAは企業に対して、特に次のことを行うよう明記しています。

・労働安全衛生法に基づき、施設ごとに安全衛生に関する目標と管理方針を定め、安全衛生管理責任者を配置する。法に基づき3人超の安全衛生管理責任者を任命した場合もしくは500人超の従業員を有する場合は、安全衛生担当組織を設置する。これらの責任者または担当組織は、安全巡視、職場改善、従業員に対する聴き取り調査、その他の適切な方策により、上記の目標と方針を実施する。

・操業の停止、避難、報告、リスク要因の除去等の重大労働災害に関する緊急対応手順、および救済または調停措置に対処するための事故後手順、報告手順を確立する。

・従業員と請負業者を保護するための安全衛生管理計画が有効であるか、さらに当該計画が現場で遵守されているかどうかを、少なくとも半年ごとに評価する。

・適用される安全衛生関連法を遵守し、リスク要因を調査し、管轄当局からの指示を実行し、危険の兆候が発見された場合に対応するなど、重大な公共災害を防止するための職務を担う担当者を任命する。

これらの要件は、2段階に分けて企業に適用されます。従業員が 50 人以上の企業については、2022 年 1 月 27 日からSAPA がすでに発効しています。さらに2024 年1月27日以降は、SAPAは全ての規模の企業に適用されます。

非遵守企業に対する規定

EHS規制を注視する担当者にとって、最も目を引くSAPAの要素は、指揮命令系統において説明責任を実施させる方法であるといえるでしょう。法人としての企業が罰則を負うだけでなく、SAPAを遵守しない企業に所属する個人も罰せられる可能性があります。

1名以上の労働者が死亡する重大事故が発生した場合、事業主または責任者たる管理職は、1年以上の懲役または 10 億ウォン(約 870,000米ドル)以下の罰金、あるいはその両方を課される可能性があります。

死亡者の発生しない重大な労働災害および公共災害の場合、企業の責任者は最長 7年の懲役または1 億ウォン(約87,000米ドル)以下の罰金に処せられる可能性があります。

当然ながら、法人としての企業も、その事業主や役員とは別に責任を負うことが定められ、死亡者の発生した事故については 50億ウォン(約4,350,000米ドル)以下の罰金、傷病者の発生した事故については10億ウォン(約870,000米ドル)以下の罰金を課される可能性があります。

グローバルな EHS 規制変更の把握が必要

現在SAPAは安全衛生の専門家に注目される話題となっていますが、SAPAも世界中で数千に上る新しく、かつ進化を続ける EHS 規制の1つに過ぎません。このようなコンプライアンス環境の変化をより広い視野から眺め、規制変更により自社がどのように直接的な影響を受けるのかを理解するため、当社の「レギュラトリーフォーキャスターサービス」をご活用ください。