ESG情報の自主的開示と義務的開示――なぜ共に重要か

サステナビリティ活動においては、ESG/サステナビリティ情報の自主的開示と義務的開示のいずれに力を入れるかの選択ではありません。両者をいかに連携させて進めるかが重要となります。

Gabriela Troncoso Alarcón

by Gabriela Troncoso Alarcón

EHS(環境、労働安全衛生)とサステナビリティの専門家がESG(環境、社会、ガバナンス)の情報開示を検討するとき、法令が求める義務的開示のみに焦点を当てるという過ちを犯すことがあります。しかし、自主的開示は、ESGの報告システムを確立し、ESGの要件を先取して進める上で重要な要素であり、企業はその価値に留意しておかねばなりません。そこで、サステナビリティ活動においてこの両方の開示をどのように連携させるかを示す3つの例を以下にみていきましょう。(また、どのシナリオにおいてもEHSコンプライアンスが基盤となることも確認します。)

1.自主的開示に基盤を置くESGの義務的開示

最初に取り上げるのは、自主的な原則またはガイドラインに基づいて強制的な法令が策定される場合です。

例として「コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス(CSDD)指令案」を挙げてみましょう。CSDD指令は、EU内外で事業を展開する企業を広く対象とし、ESGおよびサステナビリティの報告に関するルールを変えるものであり、発効すれば、企業は、環境と人権に関するデューディリジェンスの実施を求められます。そして当然ながら、環境と人権への悪影響に対処するアクションに関する情報開示も要求されることになります。このCSDD指令は、自主的な取組を定める「OECD多国籍企業行動指針」および「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいています。

さらに、ESG報告に関しては、ますます多くの要件導入が検討されています。特に、昨年EUで「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」が施行されたことにより、義務的開示が広く定着し、これまで以上に規制が強化されるでしょう。

したがって、上述の自主的な原則やガイドラインを以前から遵守していた企業は、これから情報開示に着手しなければならない企業に比べ、一歩先んじていることになります。

2.義務的開示により求められる自主的開示

次に、企業がコミットする自主的報告の取り組みを開示することが義務付けられる例を紹介します。このケースでは、企業内にESGの自主的開示を行うシステムが備わっていれば、それらを示せばよいということになります。

一般的に、ESGの開示を義務化する意図は、様々な利害関係者に対して比較可能な情報を提供する必要性に応えるというものです。欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、欧州委員会の要請を受け、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)やグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)といった他の報告基準と一貫性を図るための基準草案を提出しました。これにより、複数の利害関係者グループに対して、それぞれ異なる報告書を作成する必要がなくなります。EFRAGが起草したこの「欧州サステナビリティ報告基準」(ESRS)が採択されると、CSRDの対象となる企業には、特定のサステナビリティ情報を開示する方法を規定する法的要件が強制的に課されることになります。

興味深いのは、報告の枠組の合理化と調整を図る上記の草案が、現行の自主的報告に重点を置いているということです。実際に、ESRS草案では、企業がサステナビリティ活動を実施する中で、特定の課題を進展させるために自主的取り組みを採用しているかどうかを開示するよう求めています。

ここでESRS草案のより詳しい内容をみるため、汚染問題を例に挙げてみましょう。企業は、この報告基準の下で環境関連法規への継続的な対応を確実に実施すること求められます。どのような法規制が適用されるのかだけでは不十分で、それらがどのように適用されるか、どのような管理体制を設置すべきか、環境に関する責任や方針にどのように適合させるか、そしてこれらが最終的にはどのような形で法規に反映される可能性があるのかを把握する必要があります。そのため、サステナビリティ報告における最初のステップは、現行の法的要求事項をどのように遵守しているかを確認することになります。

3.自主的枠組により示される義務的要件

3つ目として、自主的枠組が法規を引用する例を取り上げましょう。この場合、先に法規制の検討から初めて、それによって課されるリスクを認識しつつ、ESGの自主的開示方法を構築していかなくてはなりません。

好例として気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が挙げられます。この自主的枠組は、気候関連の開示義務についての推奨事項を示すものであり、多くの国・地域で採用されています。

しかし、TCFDが実際に伝えているのは、企業は法規制の状況を理解し、変更点を適時把握し、さらに低炭素経済への移行の中で施行されるであろうより厳格な規制に対応していかなければならない、ということです。つまり、ESG開示の中心には、やはりEHSコンプライアンスがあり、そこに立ち返る必要があります。

重要な点は、かつて企業にとって有利であると考えられていた自主的な報告が、今や実際に有利であると証明されたということです。企業に利点をもたらす自主的枠組みは今後も常に存在し続けるでしょう(当然ながら、そのような自主的基準は世界中に無数にあり、どれを選択するかは自社の戦略とビジネスへの関連性の強さなどで判断されるでしょう)。そしてそれらの自主的枠組は、義務的要件への準拠を示すことを求める傾向はますます強まると考えられます。

EHSコンプライアンスは ESG開示の核心でありスタート地点

自主的開示が義務的開示につながっているか、またその逆であるか、いずれにしても、ESG開示が今後一層重要になることには変わりはありません。そしてほとんどの場合、ESG開示は、EHSコンプライアンスを基盤としてスタートします。そのため、出発点として、EHSの課題から人権やサプライチェーンの課題にいたるまで、自社にどのような法規制が適用されるのかを把握し、それによってコンプライアンス、ひいてはサステナビリティ活動の確固とした基盤を築くことをお勧めします。さらに、あらゆる段階において、EHS専門家の視点を活用しながら、コンプライアンスをいつでも参照できる情報としてサステナビリティ活動に組み込んでください。