進化するサステナビリティとESG:サプライチェーン規制の世界的な広がり

「ゾウが争う時、苦しむのは草だ」これはスワヒリ語の古いことわざです。経済のグローバル化により、サプライチェーンが幾重にも絡み合う現代で、このことわざの真意が試されています。上流の大企業間の過激な競争や不公正な慣行に、サプライチェーンの小規模なサプライヤーや下流のパートナーは大きな影響を受けてきました。一方で、ひとたび重要なサプライヤーが操業停止や倒産に陥ると、大企業も影響をうけます。企業のサステナビリティ活動の大きな流れとして、サプライチェーンを通じた公正で透明性ある事業慣行は、リスク管理の観点から、大企業の責務であると認識されるようになってきています。

by Hiromi Tasaki

広がるサプライチェーン規制

サプライチェーンにおける人権の保護や児童労働、強制労働の禁止を規定する法律や政策が各地で進展してきています。規制が導入されるということは、つまり違反があれば企業が罰せられるということです。
例えば、サプライチェーンにおいて強制労働または森林破壊の原因となるリスクがある場合、企業が製品を上市することさえ制限する動きもあります。

具体的な規制の例を挙げると、ドイツではサプライチェーンにおける企業デューデリジェンス法(Lieferkettengesetz、LkSG)が既に施行されています。同法は2023年1月1日に施行され、少なくとも3000人を雇用するドイツの企業に適用するとして開始しました。
そして2024年1月1日に、この基準は1,000人以上の従業員に引き下げられました。同法は、企業に人権及び環境リスクを防止または最小化するためのデューデリジェンスと事業及びグローバルサプライチェーンにおいて、次のような措置を規定しています。

  • リスク管理体制の確立及び定期的なリスク分析の実施
  • 事業分野における悪影響を発見した場合の予防策及び是正措置
  • 影響を受ける個人に対する苦情手続きの確立と実施

同法に基づき、企業はサプライチェーン管理について毎年文書化し、報告することも義務付けられています。適用企業は対応に向けた大幅な業務変更や新規設定が必須となっています。

サプライチェーン規制が注目されるのは、欧州だけではありません。

例えば、韓国では、2023年9月1日にグローバルサプライチェーンにおける人権と環境を尊重する法案が提案されました。同法案は、従業員500人以上、または年間売上高2,000億ウォン以上の企業を対象としています。高リスク部門で事業を行う中小企業も対象となります。法案は、意見募集が実施されましたが、具体的な施行の期日はまだ明確になっていません。採択された場合、同法はアジアにおける最初の強制的な人権と環境デューデリジェンス法となるでしょう。

欧州の動向:CSDDD

今後世界規模で影響があると考えられるのが、欧州の企業サステナビリティデューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive: CSDDD)です。同司令は2022年2月に公表され、紆余曲折を経て2024年3月15に最新案が欧州理事会にて承認されました。今後、CSDDDは欧州議会によって正式に採択され、施行される予定です。

CSDDDは、EU及びEU域外の大企業を対象としています。

対象企業には以下のような義務が課されます。

  • バリューチェーンにおいて人権及び環境に悪影響を及ぼす事項を特定し、防止、軽減、改善計画を策定しなければなりません。具体的な悪影響としては、児童労働、強制労働、汚染、森林破壊、過度な水の消費、生態系に対するダメージが挙げられます。
  • ビジネスパートナーから契約上の保証を取り付け、事業計画を改善するとともに、中小規模のビジネスパートナーに対するサポートを提供することが求められます。
  • 影響を受けるステークホルダーとの対話及び協議を含む実効的なエンゲージメントを行う義務があります。

 

違反した場合は、罰金として全世界の年間純売上高の5%が提案されています。

企業への影響

これらサプライチェーン規制は何を物語っているのでしょうか?規制対象となる企業は、自社のバリューチェーン戦略を見直し、デューディリジェンスを企業方針に取り込むことが必要となるでしょう。そして実在するあるいは潜在的な負の影響を特定するプロセスを明確にしなければなりません。一方、仮にこれらの規制の直接的な対象とならなくても、自社が対象企業のバリューチェーンに存在すれば、影響を受けるということです。つまり顧客から質問を受け、対応を要求される可能性があります。

いずれにしても各地で進展するサプライチェーン規制の動向をタイムリーにとらえ、自社への影響を見極め、対策を進めることが推奨されます。