2025年のグローバルなEHS法令動向:企業が注目すべきポイント

2025年は、企業のEHS(環境・安全・衛生)担当者にとって引き続き世界的な動向を注視しなければならない年となるでしょう。世界各地で改正や新法設立による厳格化など、年々EHS法令は増加し複雑化しています。Enhesaは毎年その年の世界的な法令動向の予測に関する無料ウェビナーを開催していますが、本稿ではここ数年必ず取り上げるホットなトピックである気候変動対策と労働者の保護に関する規制動向に焦点を当てて紹介します。

by Hiromi Tasaki

気候変動対策

欧州連合(EU)は、2050年までに気候中立を達成することを目指しており、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年のレベルと比較して少なくとも55%削減することを目標としています。この目標達成のため数多くの政策、規制が提案され施行されています。この一端としてEU排出量取引制度(EU ETS)に関する改正が行われ、2024年1月1日から遡及的に適用されます。これにより、企業はより厳格な排出の監視および報告義務を遵守する必要があります。

また、新たにEU自然回復規則という法令が2024年8月に施行されました。この法令のもと、劣化した生態系を回復するための拘束力ある目標を設定しています。EU加盟国は2030年までに陸地と海域の少なくとも20%を回復し、2050年までに回復が必要なほとんどの生態系を回復するための措置を実施する必要があります。これらの拘束力のある回復目標は加盟国レベルにのみ適用されますが、企業も国家が目標達成のため採用する措置によって影響を受ける可能性があります。例えば、有害化学物質の管理や産業廃水からの汚染を減少させる措置などが適用される可能性があります。

アジア太平洋地域でも気候変動対策が進展しています。中国では、2024年8月に国務院が二酸化炭素排出量のピークとカーボンニュートラルを達成するための国家戦略を発表しました。また、オーストラリアでは、産業、資源、建築、環境の各部門における排出削減計画が発表され、2050年までにネットゼロ経済を達成するための国家目標を支援する計画が策定されました。これらの計画に基づき、今後各部門の企業向けに具体的な措置が施行される可能性があります。

米国での気候対策については、トランプ大統領が1月にパリ協定からの離脱する大統領令に署名をしたのは記憶に新しいと思います。これにより連邦レベルでは気候対策の停滞あるいは後退が予測されます。しかしながら、州レベルで独自の対策が進行しています。

例えば、メリーランド州は2031年までに州全体の温室効果ガス排出量を60%削減し、2045年までにネットゼロ排出を達成することを目指しています。ペンシルベニア州では、2005年のレベルから2025年までに州全体の温室効果ガス排出量を26%削減し、2050年までに80%削減するという独自の気候目標を推進するために、下院決議第504号を導入しました。さらに、ニュージャージー州は、気候スーパーファンド法案を発表し、気候変動の影響によって州とその住民が受けた損害に対して、特定の化石燃料会社に責任を負わせる方向に動いています。このようで米国では、今後数年間州の動向に注視する必要がありそうです。

労働者の保護

労働者の保護に関しても重要な規制が導入されています。EUでは、テレワークに関する規制が進化しており、リモートワーク中の労働者の健康、安全、ワークライフバランスを保護するための法令が検討されています。EUレベルではまだ法制化の検討段階ですが、いくつかのEU加盟国では既に法制化されています。

例えば、オーストリアでは、新しい規制が採択され、テレワークには従業員の自宅だけでなく、カフェやコワーキングスペースなどの他の場所で行われる仕事も含まれることが明確にされました。その結果、雇用主はこれらの場所や通勤中に発生した労働災害を報告する必要があります。さらに、ブルガリアは2024年春に、リモートワーカーにつながらない権利を保証する法律を可決しました。これにより、休憩中や勤務時間外に雇用主と連絡を取る義務がなくなります。労働者の働き方が多様化し、企業は様々なケースを想定して保護を強化していくことが求められます。

また、労働者の保護に関する政策として、ここ何年か熱中症対策が重要な課題として各地で議論されています。例えば、米国では多くの州が屋内外の熱曝露規制を提案または採択しています。昨年カリフォルニア州は熱中症予防および屋内作業場所プログラムを採択し、熱中症に関する基準を含む規制を施行する最新の州となりました。

2024年7月以降、カリフォルニア州の屋内作業場で温度が華氏87度(摂氏30度)または華氏82度(摂氏28度)超える可能性がある施設や、熱除去を制限する衣服を着用する必要がある従業員や高輻射熱エリアで働く従業員がいる施設は、新しい要件に従う必要があります。これには、新鮮で適度に冷たい飲料水を無料で提供し、作業場所やクールダウンエリアの近くに水を提供すること、温度が華氏82度以下に保たれる少なくとも1つのクールダウンエリアへのアクセスを確保することが含まれます。

連邦レベルでも2024年7月にアメリカ労働安全衛生局(OSHA)が熱中症予防計画を策定する規制を提案しました。この連邦提案では、企業は、熱安全コーディネーターを配置し、従業員および監督者に対する初期および年次トレーニングを実施し、熱に関する条件を監視し、携帯用の水と日陰または空調の効いた休憩場所を提供し、順応プロトコルに従うことが求められます。このように米国では熱中症対策について、企業に対する具体的な要件を明確にしてきています。

企業への影響

気候変動対策や労働者の保護に関する規制について、確実に言えるのは、規制の手法は多様化しており、カバーする範囲も拡大しています。企業の本社にあっては、これまで以上に各地域の規制動向を適時把握し、対応していかなければなりません。さらに、欧州企業サステナビリティ報告指令(CSRD)などの強制報告制度の施行により、企業は自社のEHS法令順守を含むサステナビリティ活動を開示することが義務化されるようになってきています。

EHSコンプライアンスはサステナビリティ活動の基盤をなすものであり、いかにこれを効率的に達成するかを企業は真剣に検討する必要があります。

Enhesaではグローバル企業に対し、世界各国でEHSコンプライアンスを管理し、パフォーマンスを向上させるためのサービスを提供しています。

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