グローバルEHS・サステナビリティ法規制の最新動向

本記事では、先日開催したウェビナー「2025グローバルEHS・ESG法規制の最新動向」をもとに、特に注目される2つのテーマ―拡大生産者責任(EPR)と労働者保護―についてご紹介します。

by Shiyuan Yang

多国籍企業は、環境保護や労働安全衛生、労働者保護に関する規制が世界的に強化され続ける中、その変化への的確な対応が求められています。近年では、サステナビリティ投資の拡大や消費者意識の高まりを背景に、EHSコンプライアンスは単なる法令遵守にとどまらず、企業価値や競争力に直結する戦略的な取り組みへと進化しています。

本記事では、先日開催したウェビナー「2025グローバルEHS・ESG法規制の最新動向」をもとに、特に注目される2つのテーマ―拡大生産者責任(EPR)と労働者保護―についてご紹介します。

拡大生産者責任(EPR)と循環経済に関する規制強化

まず、EU「包装・包装廃棄物規則(PPWR)」は2024年2月に発効し、2026年8月から適用が開始されます。従来の「包装廃棄物指令指令(PPWD)」から規則に格上げされたことで、EU全加盟国に直接適用され、国ごとの制度差が抑えられ、より一体的な取り組みが可能になります。また、PPWRでは、製品包装、輸送包装、販売包装など、あらゆる包装形態が対象となり、設計から廃棄までのライフサイクル全体をカバーします。

2026年以降は、包装設計における有害物質の最小化が義務付けられ、食品接触包装には初めてPFASの使用制限が導入されます。さらに2030年からは、すべての包装が性能等級に基づいてリサイクル可能である必要があり、再利用目標も設定されます。2040年にはその目標値がさらに引き上げられる予定です。

加えて、2028年からは材質や再利用可能性を示す統一ラベルの表示が義務化され、QRコードなどによるデジタル情報提供も含まれます。今後、再生材含有率の算定方法など、実施に向けた詳細なガイドラインが欧州委員会から発表される見込みです。

次に、EU「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」は2024年7月に施行されました。従来のエネルギー関連製品に限定されていたエコデザイン指令を拡張し、ほぼすべての製品が対象となりました。ESPRは、製品の耐久性、資源効率、リサイクル性、環境フットプリントなどに関する基準を導入するための枠組み法です。すべての対象製品には「デジタル製品パスポート」(DPP) 導入が義務付けられ、製品情報の透明性が求められます。DPPはESPRの中核的な仕組みであり、製品の持続可能性や耐久性、環境への影響などに関する情報をデジタル化して管理・共有することを目的としています。これにより、消費者、企業、主管当局は製品のライフサイクル全体にわたる情報に、より容易にアクセスできるようになります。

ESPRの要件は、欧州委員会が今後発行する委任法令によって、製品グループごとに具体化される予定です。2025年4月、欧州委員会はESPRの最初の作業計画を発表し、鉄鋼、アルミニウム、繊維、家具、タイヤ、マットレスなどを今後5年間の優先対象製品グループとして示しました。これらの製品グループには、最低耐久性やエネルギー効率、環境情報の表示などが求められる見込みです。

アメリカでも、州レベルでEPR制度の導入が進んでいます。例えば、メリーランド州では、2028年7月1日以降、対象包装・紙製品を製造・販売・流通する企業に対して、5年ごとにEPR計画を提出し、承認を取得することが義務付けられます。計画には、リサイクルや再利用、再生材の使用状況などが含まれます。

ワシントン州では、2026年1月1日から、対象包装・紙製品の製造・使用・販売者に対し、生産者責任組織への加入または個別登録が義務化されます。対象には、個人や非商用利用向けの紙製品も含まれます。これらの制度は、州レベルでの環境責任と持続可能性への取り組みを示すものであり、企業としては、対象製品や登録要件を早期に確認し、対応を進める必要があります。

さらに、2024年末にはインド環境・森林・気候変動省が「包装材および衛生製品に関するEPR規則案2024」を公表しました。この規則案では、紙・ガラス・金属製の包装材やおむつ類、ウェットティッシュ類などの衛生製品を製造・輸入する事業者およびブランド所有者に対し、使用後廃棄物のリサイクルや適正処理などの管理責任が課されます。本規則が可決されれば、2026年4月1日から施行される予定です。企業には中央ポータルでの登録・報告が義務付けられ、段階的なリサイクル目標や再生材の使用要件も導入されます。

労働者保護に関する法規制の動向

労働者保護の分野でも、各国で規制強化の動きが見られます。まず、アメリカの州レベルでは、職場のハラスメントやいじめ防止に関する取り組みが進められています。

メリーランド州では、「下院法案1548号(HB1548)」が提出され、企業にはハラスメントや脅迫行為の報告制度を構築することが義務付けられます。具体的には、匿名性を確保した電子通報プログラムの導入や、報告フォームの作成が求められます。

また、マサチューセッツ州では、「上院法案1347号(SB1347)」が提出され、職場いじめを違法行為と定義し、企業に対策を義務付けています。いじめの判断には、行為の性質、頻度、継続期間、そして発生状況の文脈という4つの要素が考慮されます。企業には、懲戒プロセスの透明化や、従業員への研修の実施が求められています。これらの法案は、従業員が安心して働ける職場環境づくりを目指す、州の積極的な取り組みと評価されています。

EUでは、職場での有害物質への曝露に関する2つの指令が改正され、加盟国にはこれを国内法に転換することが求められています。1つ目は「発がん性・変異原性・生殖毒性物質指令(Directive EU 2024/869)」で、対象物質は鉛およびその無機化合物、ならびにジイソシアネート類です。企業には、厳格な曝露限界値の遵守と健康監視の義務が課されます。この指令は2026年4月9日までにEU加盟国で国内法化される予定です。

2つ目は「アスベスト作業指令(Directive EU 2023/2668)」で、曝露限界値が従来の10分の1に引き下げられました。企業は、より厳格な予防・保護措置の実施や、作業者への研修義務に対応する必要があります。こちらは2025年12月21日までにEU加盟国で国内法化される予定です。これらの改正は、労働者の健康保護を強化するEUの取り組みの一環です。

さらに、2025年4月には欧州委員会が2026〜2030年のジェンダー平等戦略に向けたパブリック・コンサルテーションを開始しました。この戦略では、雇用や賃金におけるジェンダー格差の是正、女性の権利強化、そして差別の防止が柱となっています。今後5年間で予定されている施策には、法制度の改善、啓発キャンペーンの実施、そしてジェンダー平等に関するデータの収集と活用が含まれます。この戦略は、2026年の欧州委員会作業計画に組み込まれる予定であり、EUの社会的保護政策における重要な優先事項となっています。

アジア太平洋地域でも、労働者保護に関する規制強化の動きが加速しています。日本では、カスタマーハラスメント防止義務が法制化され導入されつつあります。東京都では、2025年4月に「カスタマーハラスメント防止条例」が施行され、事業者には防止対策の努力義務が課されます。全国レベルでは、2026年度中に施行予定の改正労働施策総合推進法がすでに成立しており、事業主には相談・対応体制の整備や報復行為の禁止が義務付けられます。

一方、シンガポールでは「職場公平法(Workplace Fairness Act 2025)」が発表されました。施行日は未定ですが、2026〜2027年の施行が想定されています。この法律では、従業員25名以上の企業に対し、雇用判断における差別の禁止、正式な苦情処理制度の構築と機密保持、そして報復行為の禁止が義務付けられます。また、差別的な求人広告や社内制度の制限も求められます。

まとめとして、EHSおよびサステナビリティに関する規制は、世界各地で急速に進化しており、企業にとっては単なる法令遵守にとどまらず、持続可能な成長や社会的責任の達成に向けた重要な戦略課題となっています。各国・地域の最新動向を継続的に把握し、迅速に対応することが、企業価値の向上と長期的な事業の持続性を支える鍵となるでしょう。