非財務情報の開示: 欧州CSRDとISSBサステナビリティ開示基準

気候変動やサステナビリティに関する報告制度が世界的に拡大しています。この流れは自主的開示から強制開示へ、自社の取組からバリューチェーンを含めた取組へと企業にとって負担が大きいものとなっています。本稿では非財務情報の開示として特に注目すべき2つの制度、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)と国際サステナビリティ審議会(ISSB)による報告基準について説明します。

by Hiromi Tasaki

初の強制報告基準によるCSRD

2023年1月に成立したCSRDはサステナビリティ報告に関する新たな欧州の指令です。

企業に強制力ある報告基準に従った報告を義務付けるだけでなく、上場中小企業も含め、より広範な企業に影響を及ぼすものです。既にCSRD全身のNFRD対象企業は2024年の会計年度から適用となり、2025年に報告しなければなりません。2025年にはすべてのEU大企業、2026年には上場中小企業に順に適用されます。2028年以降、EU域外に本社を持つ第3国企業にも適用されます。日本企業でEUに支店や子会社を持つ企業はこのカテゴリーに入る可能性があります。

CSRDの前身として2014年から施行されていた非財務情報開示指令(NFRD)は、適用範囲や開示基準が十分に明確でないと問題視されており、情報開示の質にばらつきが生じていました。カバーされる企業数の少なさも指摘されていました。これに対し、CSRDはNFRDの問題点を解決することを目的としています。CSRDでは、適用範囲が拡大され、より多くの企業が対象となります。また、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)が導入され、強制基準に基づく開示が求められます。さらにサステナビリティ報告への第三者保証が義務付けられることにより、開示基準がより明確かつ統一され、企業間での比較容易性や報告の信頼性が向上することが期待されています。

ISSBによる国際会計基準に付随するサステナビリティ開示基準

一方、ISSBは2021年11月に発足された「国際サステナビリティ基準審査会(International Sustainability Standards Board)」の略称です。

世界の資本市場における投資家の情報ニーズに応えるサステナビリティ情報開示の国際基準の統一化を目指し設立されました。ISSBは国際財務報告基準(IFRS(International Financial Reporting Standards)に付随する形式でS1とS2のサステナビリティ情報開示基準を開発しました。IFRSは国際会計基準のグローバルスタンダードです。「S1」は、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項を提示しており、そのうち気候変動に関する情報開示のみを切り出し、気候に関する詳細な開示要件を定めているのが「S2」基準です。

顕著な点として、世界各国の証券監督当局や証券取引所等から構成されている国際的な機関であるIOSCOが昨年ISSBの基準を正式に受け入れたことを挙げたいと思います。IOSCOには130以上の国地域が加盟しています。したがって、加盟国はISSBの基準を国内法で強制できるということです。日本でも公益財団法人財務会計基準機構(FASF)傘下のサステナビリティ基準委員会が、ISSBに基づく基準策定を進めています。

CSRDとISSBの比較

ここで2つの報告基準を比較してみました。CSRDに基づくESRSとISSBに基づくIFRS S1及び S2です。まず義務的な側面について言うと、ISSBは自主基準です。しかしながら、前述したようにIOSCO 加盟国が、ISSBの基準を国内法にて開示基準と規定した場合は、拘束力のある基準となります。CSRDは、明確な報告義務を対象企業に課します。ただし、CSRDは指令であるため、企業に実際の義務を課すには、まずEU加盟国によって国内法制化される必要があります。 この国内法への移管期限は今年7月6日です。

開示対象とするセクターについても違いがあります。ISSBの主な「対象者」は、投資家、貸し手、その他の債権者です。これはIFRSが国際会計基準であることを考慮すると不思議ではありません。したがって、基本的に、情報は金融セクターに関連するものに限定されます。一方、CSRDはるかに広くすべてのステークホルダーを対象としています。

さらにマテリアリティ(重要項目)についても大きな違いがあります。CSRD/ESRSでは、ダブルマテリアリティアセスメントが必要となります。ダブルマテリアリティでは企業がサステナビリティに関する事項に与える影響とサステナビリティに関する事項(例えば気候変動や生物多様性)が企業の発展や業績、地位に与える影響、この2つの側面を評価しなければなりません。一方、ISSB基準では、サステナビリティに関する事項で企業に影響やリスクを与えるもの、すなわち投資家が注目する財務的な重要性についてのみ評価を行います。

それぞれ産業別基準も整備されていますが、ESRSの産業別基準は少し遅れが生じており、2026年ごろからの適用となる見込みです。

スコープについては、ESRSが2つの横断的基準と10のトピック別基準(環境、社会、ガバナンス)を規定しているのに対し、IFRSではサステナビリティ情報の全般開示と気候情報の開示に限定されています。ただし、ISSBは今後、人権、人的資本や生物多様性などに関連する基準の開発も進めています。

 

ここでは違いに焦点を当てましたが、ISSBとCSRDは相互運用可能なように設計されています。ISSBに基づく報告を実施する企業は、情報をCSRD/ESRSが要求する報告に再利用することができます。例えば、両方とも、ガバナンス、戦略、リスクと管理、指標と目標を枠組として取り入れており、これは、GRI、CDP、TCFDなど、他の国際基準とも整合しています。

日本企業への影響

近い将来、多くの主要な日本企業がISSBまたはCSRD、あるいはその両方について、報告する日が来ると予想されます。CSRDは第三者保証が法的に求められること、ISSBについてはそもそも金融セクターが対象であることから、開示情報は検証可能で透明性が高いデータを提供する必要があります。事業を展開する各地域で、企業として標準化され一貫性あるサステナビリティやEHSデータを収集できているかを確認し、継続的に蓄積していくことが求められます。