CSRからESG開示へ――サステナビリティに関する中国の次なるステップ

中国ではESG報告を義務化する規制の整備が進行中
このESG開示の進展について知るべきこととは

世界的なネットゼロへの動きと持続可能性の追求により、多くの国々で企業のESG側面の開示(環境、社会、ガバナンスの問題に関する報告)は、「重要」という位置づけから「義務」へと変化しています。これに伴って課題も発生しており、とりわけ多くの発展途上国において、企業の事業活動に関する情報を入手しようとする場合に顕著にみられます。中国の戦略は、規制の整備により企業の社会的責任(CSR)を段階的に育成すること――すなわち、まずは企業に自主的な取組を求め、その後、環境情報開示を義務化していくというものです。では、この戦略の進展について企業は何を抑えるべきでしょうか。また中国でにおけるESG活動の実施にどのような影響を与えるのでしょうか。

先行するCSR、それに続くESG開示の要請

CSRが中国に導入されたのは約20年前です。それ以来、積極的にCSRプログラムを策定する企業が増え続け、CSRは汚染の削減、生産の安全性、労働衛生といった多方面にわたる規制や制度に組み込まれており、今日では企業責任の一環を構成するものとなっています。CSRは今のところ主として企業の自主性に委ねられているものの、その影響力は高まっており、さらにはESG開示が求められるようになっています。
一例として挙げられるのが環境信用評価システムです。中国は、2013年に企業環境信用評価規則を公布しました。これは、重度の汚染を発生させ、深刻な環境破壊を引き起こす可能性のある業界において、コンプライアンス状況を記録、評価することを目指すものです。このシステムでは、以下を含む一定の基準に基づいて企業の環境信用度が決定されます。
1. 汚染防止
2. 環境保護
3. 環境管理
4. 社会的監督
省政府はこれらの信用度基準に基づいて定期的にコンプライアンス状況の情報を収集し、年間の信用度スコアを開示します。スコアが高い方から順に、緑、青、黄、赤の4つのレベルに分けられ、信用度を示す各レベルに対応して、高レベルの企業は資金援助の対象となったり、低レベルの企業はより厳格な査察が適用されるなど、様々な結果が待ち受けています。このことについては後述します。

今日、CSR はすでに企業責任の一環となっています。現段階ではまだ主として企業の自主性に委ねられていますが、その影響力は高まっています。

企業の環境信用評価により引き上げられるCSRの水準

最近まで、CSRにおいて重要な点は、単にコンプライアンスを維持し、社会的責任への投資を行うことであるとされてきました。しかし、中国の規制方針はダイナミックに情報開示を求める、より積極的な要請へとシフトしてきています。さらに環境信用評価によって、中国で事業を展開する企業のCSR活動にも変化が生じています。
企業の環境信用度は、金融機関や地方政府にとって極めて重要な参考情報です。これらの機関は、環境信用度によって資金援助を受ける資格を与えたり、取り締まりを強化したりといった決定を行います。企業環境信用評価システムにおいては、政府機関の間で共有できる一元化されたデータベースが構築されます。環境信用度は企業に対する報酬と処罰に大きく影響し、このことによって間接的に、企業が社会的責任を果たすための動機付けとなっています。
環境信用度が高い企業は、迅速な行政の許可と資金援助を得る権利を与えられます。それゆえに中国の企業は、社会とのつながりの強化や企業の名声の確立を図って、CSRプログラムを実施し、CSRレポートを発行しています。
当局は、環境信用度レベルを向上させるため、積極的に責任を果たすことを企業に奨励しています。例としては次のような事項が挙げられます。

• クリーン生産審査の促進
ISO14001認証の取得
• 環境報告書の作成とESG開示
• 環境保護意識の向上に努めるコミュニティ活動への参加

その一方で、企業は支援の恩恵を受けるために、環境に悪影響を与える可能性のある自社の事業活動について、より厳格な査察を受ける必要があります。

中国の法律で新たに義務付けられたESG開示

上記の信用評価システムに加え、中国ではESG開示の重要性がますます増大しています。 2012~2020年において、上海および深圳の証券取引所へ提出される財務報告書の中で、CSR、環境責任、サステナビリティ、ESGレポートなどの環境関連情報を開示する企業の数は急速に増加しました。中国環境ジャーナリストフォーラムによると、2020年にはその数が2019年から11.7%増加し、過去最高を記録しました。今後も、適用される企業および要件の数は増え続け、増加の一途をたどることが見込まれます。

カーボンニュートラルへの対応

2030年までのカーボンピークアウトおよび2060年までのカーボンニュートラルという中国の目標(「ダブルカーボン戦略」)を踏まえ、今後多くの企業が、事業計画の中で温室効果ガス(GHG)の排出量削減を検討し、革新的技術と代替エネルギー源に適切な投資を割り当てる必要に迫られるでしょう。
この戦略は主として、石油精製、化学品製造(ビニル化合物、エチレン、キシレン、アンモニア)、建設および鉄鋼、合金鉄、非鉄金属等の産業に従事する企業に影響します。これらの企業は、化石燃料から非化石燃料などより持続可能な資源へとエネルギー消費を転換し、生産工程の設備と技術においてエネルギー効率を高めるという緊急の課題に直面しています。

主要な汚染発生者に対する開示義務

中国生態環境部(MEE)は最近、環境情報開示が義務付けられる範囲を、主要な汚染物質の排出者から、クリーン生産審査の対象となる上場企業または社債発行企業へと拡大しました。この開示義務は、前年(暦年)に環境法違反により刑事罰、罰金、または営業停止処分を科せられた社債発行企業にも適用されます。(これは、環境情報開示制度改革計画企業環境情報開示管理規則の公布を踏まえたものです。)
2022年2月8日より、規制の対象となる企業は、前年の年次環境情報レポートを3月15日までにMEEへ提出することが義務付けられました。炭素排出権取引を行う企業は、このレポートに炭素排出に関する情報――排出量、排出枠および精算額、温室効果ガス排出量の計算に使用するガイダンスまたは方法――を含める必要があります。これは、従来の要件である汚染の排出に関する必要情報、環境影響評価報告書および緊急対応計画に追加された事項です。

有害物質と環境管理

EUおよび米国の法律では、有毒物質の排出や環境管理対策などの環境情報を財務レポートまたはESGレポートの中で開示することが義務付けられています。中国でもESG開示に関する規制改革により同様の義務を定めました。今後は、上場企業の公募・売出に関するレポートや証券取引所規則に基づく財務レポートにおいても環境情報の開示が求められ、こうした情報は、政府機関間で、さらには金融信用情報基本データベースを通じて共有されることになります。

企業にとってESG開示の進展が意味するもの

今のところ中国において、CSRに関する要件は比較的限定的かつ自主的な実施にとどまっていますが、その中で上述のESG開示の着実な進展は重要なマイルストーンです。自社がまだESG情報開示義務の対象となっていない場合でも、積極的な取組が必要です。コンプライアンスを達成するだけでは十分ではありません。

CSRレポートの作成過程においては、一般原則と業界固有のニーズに基づいて実質的なレビューを行うとともに、実際の行動によってそれを裏付けていく必要があります。また、中国のダブルカーボン戦略と今後のエネルギー転換への対応を検討することも重要です。これについては、ESG開示から着手し、CSRおよびESG実行の一環としてサステナビリティ計画に発展させる必要があります。早期にこうした行動を起こすことにより、グリーン生産とエネルギー転換に関連する政府補助金および税制上の優遇措置が受けられる資格を得る機会が大幅に増える可能性があります。