EUのエネルギー規制改正:2023年の動向
エネルギー効率の向上に関する議論を重ねてきたEUでは
現在、規制の改正が進行中。2023年に予測されることをまとめました。
*本記事は、2023年1月発行英語レポートの抄訳
EUではエネルギー関連規制の改正が急ピッチで進められており、2023年には、欧州当局が複数の政策を採択、施行することが確実視されています。いくつもの変更点が考えられますが、とりわけ、化石燃料に対する増税や、ソーラーパネル設置などのグリーンエネルギー採用に対する経済的インセンティブが導入される可能性が最も高いといえます。
まもなく実施される指令の改正により、企業がどのような影響を受けるのか、いくつかの項目に分け、見ていきましょう。
まもなく改正されるエネルギー指令
EUグリーンディールは、エネルギー部門における多数の政策の起点を設定しました(当然ながら他の部門における政策も同様です) 。2050年までに欧州が世界に先駆けて気候中立を達成するというグリーンディールの目標により、2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量の 55%削減を目指すという「Fit for 55」政策パッケージの意欲的な目標が打ち出されました。
この目標を達成する上で注目を集めているのが、建築物、産業、輸送など、エネルギー使用に関連する各分野への取り組みによるエネルギー消費の削減です。そのためEUは2023年に、欧州委員会作業プログラムの提案を採択し、下記に関する指令を改正することが予測されます。
・エネルギー効率
・建築物エネルギー性能
・エネルギー税
・再生可能エネルギー
以下、それぞれの改正に関する内容を詳しくみていきます。
エネルギー効率:消費量を最大39%削減
「エネルギー効率化指令」は、グリーンエネルギーの使用を増加させることによりEUグリーンディールの脱炭素目標を達成するための重要な手段です。本指令の改正案において欧州委員会は、費用対効果の高い節減を促進し、それによって長期的にGHG削減、エネルギー安全保障の向上、企業のエネルギーコスト削減につなげることを提案しています。産業部門に関しては、すでに部門内で取り組みが行われてはいるものの、クリーンでカーボンニュートラルな経済への移行のために不可欠なこととして、冷暖房の節減が特定されています。
この改正案では、2030年までに、一次エネルギー消費ベースで最大39%、最終エネルギー消費ベースで最大36%の削減という、さらに高度なエネルギー使用削減目標が設定されています。
この目標を達成するためには、後述する建築物、課税、再生可能エネルギーに関する規制など、より特化した補完的な法律を制定する必要があります。
建築物エネルギー性能:2050年までにゼロ・エミッション達成
近年EU は、建築物のエネルギー性能改善を図る重要な規制、すなわち「ニア・ゼロ・エネルギー・ビルディング(NZEB)規格」や2010年5月19日付「建築物エネルギー性能に関する欧州議会および理事会指令2010/31/EU」(改正)等を制定するなど、法整備に注力してきました。
改正案では、一例として、2050年までにEU域内の全ての建築物をゼロ・エミッションにするという意欲的な目標が掲げられています。この目標を達成するため、新築される建築物全てをゼロ・エミッションにするとともに、新築と既存を併せた全ての建築物に対して、2030年までにエネルギー性能証明書の取得を義務付けます。
既存の非居住用建築物に関しては、各EU加盟国は最小エネルギー性能基準(建築物の1m2あたりで使用できる最大エネルギー量)を制定することが求められます。ただし、工業用地や50m2未満の建築物の場合など、この義務にはいくつか例外も存在します。
さらに、EUはグリーンエネルギー採用に対するインセンティブ導入も行います。2028年までに、機能床面積が400m2超の非居住用建築物全てに関し、改修工事を行う際は太陽光発電設備導入を義務付けることとしています。見返りとして企業は経済的利益および減税というメリットが得られます。この提案が欧州議会および理事会によって採択されれば、エネルギー性能証明書に基づく全国的データベースの作成が見込まれ、これによって企業は、建築物のエネルギー効率情報へのアクセスが容易になるでしょう。また、欧州全域での整合性を図るため、エネルギー性能証明書作成の基礎となるエネルギー性能レベルの分類基準が指令により定められることとなります。
エネルギー税:増税対象製品の増加
「エネルギー課税指令」は、数ある目標の中でも、とりわけ企業や個人がより持続可能な行動を選択するよう促すため、インセンティブの提供を意図したものです。そのために、「Fit for 55」政策パッケージでは、この指令改正案がエネルギー部門に対する増税を含めることを提案しています。
欧州委員会によるこの提案が採択された場合、企業は税構造の大幅な変更と課税対象の拡大に直面する可能性があります。たとえば、課税当局は燃料と電気の使用量を考慮する代わりに、各製品のエネルギー量(Energy Content)および環境性能に基づいて課税するようになります。また、指令改正案では、航空部門で使用される灯油や海運部門で使用される重油など、より多くの製品を課税対象とすることが求められ、さらに、この適用税は10年間にわたって徐々に増額されます。改正案は現在審議中であるため、まだ企業に対する課税面での実際の影響を明示することはできませんが、将来的に化石燃料への課税が一層重くなると予測されるでしょう。
再生可能エネルギー:消費エネルギーに占める比率を40%に
化石燃料から脱却するためには、再生可能エネルギーなど、より環境に優しいエネルギーへの投資が不可欠です。そこで「再生可能エネルギー指令」の改正が提案されています。この改正案は、風力発電、太陽光発電、水力発電およびバイオ燃料への投資を増やすことを意図したものです。
改正案の主要な目標の一つは、再生可能エネルギーから得られるエネルギーの比率を高めることであり、2030年までに、EUで消費されるエネルギーの40%を再生可能資源由来とすることが掲げられています。
各EU加盟国は、この目標を達成するために、独自の国内基準を設定しなければなりません。そのため、産業部門における再生可能水素の使用など、再生可能エネルギー源の使用は、国内目標達成のために、国レベルで奨励されるものと予測されます。こうした意味において、欧州委員会は最近、ポルトガル、フランス、スウェーデン等の加盟国に対し、「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」に基づき、水素の製造・貯蔵用インフラへの投資を目的とする国庫補助の付与を許可しています。
エネルギー関連指令の改正に先立って行うべきこと
当然ながらEUでは、現在も加盟国においてカーボンニュートラルと優れたエネルギー効率を実現するため、適切な政策を進めています。しかし、早くも今年、一部の変更が実施されるものと予測されるため、企業は新たな要求事項に対応できるよう、今すぐに行動しなければなりません。最優先で確認すべきは、持続可能性と環境影響に関して、自社のビジネスに適用される要求事項を完全に把握しているかどうか、そしてそれらの要求事項が将来どのように展開していくと予測するかということです。
新しい機械設備への投資が必要となるかもしれません。あるいは、施設や建物または工程に対するその他の変更を意味する可能性もあります。特に、企業は再生可能エネルギーにより多くの投資を行うことが求められており、欧州に関していえば、それは主要な代替エネルギーである水素を指します。エネルギー関連の規制または他の関連事項に不意打ちを食らってはなりません。くれぐれも、自社のビジネスにおいて予想されること、それに対応するにはどのような準備が必要かということについて、確実に概要を把握しておくことです。