世界のEHS・サステナビリティ法令の動向:グローバル企業はどのように遵法を確保するべきか?
現代のグローバル企業にとって、環境・安全衛生(EHS)およびサステナビリティ法令の遵守は、事業基盤を支える重要な要素です。法令順守が徹底されていなければ、どれほど素晴らしい方針を持っていても、その信憑性が疑われ、真の社会的信頼を得ることはできません。本稿では、進展するEHS・サステナビリティ法令の動向を説明し、グローバル企業が遵法確保のため検討すべきポイントを整理します。
世界の環境安全衛生法令の進展
企業のEHS担当者であれば実感されていると思いますが、EHS法令は世界各地でその数が増え、厳格化し、内容が複雑化しています。Enhesaが提供する法令データベースに収載されている環境・安全衛生に関する法的要求事項の数は、2020年に全世界で20万強であったのに対し、コロナ期を通しても拡大し続け、2024年には30万弱と4年間で42%増加しました。この法的要求事項数の増加とその内容の厳格化、複雑化の傾向は、過去10年間一貫しており、今後も続くと予想されます。
例えば気候変動一つをとっても、多くの国で2050年前後にカーボンニュートラルを達成する目標が掲げられており、多様な政策が推進されています。従来型のエネルギー管理や二酸化炭素排出量の報告から、炭素排出量取引、気候リスクの財務報告制度、新エネルギー・再エネルギーの採用、建物からのゼロ排出、製品のカーボンフットプリントなど数多くの国で義務化されています。一方、米国ではトランプ政権のもと、連邦レベルではあらゆるEHS規制が緩和されようとしています。気候変動対策については、パリ協定からの離脱を始めとして連邦レベルでは今後数年間後退することが予測されます。しかしながら、気候変動はアメリカ国内で依然として重要な規制課題であり、各州は自州のカーボンフットプリントを削減するための取り組みや規制導入を進めています。つまり米国においては、連邦のみでなく、自社が操業する州の規制も理解して行動をしなければなりません。
安全衛生の分野である従業員の保護を取り上げると、企業の責任範囲の拡大と保護対象の多様化が見て取れます。欧州では加盟国レベルで「つながらない権利」や「テレワーカーの保護」に関する規制が進展し、企業はリモートワークをする従業員の心身の安全に配慮しなければならなくなってきています。また、気候変動により各地で顕著になった熱波や異常高温のため、世界各地で「熱中症対策」の法制化が進んでいます。グローバル企業は、各国の社会的状況と規制動向を理解し、従業員の保護を強化していかなければなりません。
関連情報はこちらをご覧ください。「2025年のグローバルなEHS法令動向:企業が注目すべきポイント」
ESG・サステナビリティ法令の動向
ESG・サステナビリティ法令については、欧州を中心に各地で様々な動きがあります。例えば、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)、企業サステナビリティデューデリジェンス指令(CSDDD)により、これまで多くの企業が自主的に対応してきた事項が、法制化され義務化します。 CSRDは、サステナビリティに係る事項を強制的な基準に基づいて企業が報告しなければならい制度です。一方、CSDDDはサプライチェーンを通じて人権と環境に悪影響やリスクがないか企業にデューデリジェンスを要請するものです。これらの指令は該当企業のみならず、サプライチェーンにまで義務が及ぶということで、企業の負担が増大すると認識され、一部の業界団体や米国から反対されてきました。そのような経緯もあり、2025年2月に欧州委員会は、CSRDとCSDDDを含む欧州規制の簡素化を提案するオムニバス法案を発表しました。このオムニバス法案は対象企業の範囲や企業の義務を当初より大幅に軽減することを提案するものです。第一段階として4月14日にCSRDとCSDDDの適用開始を1~2年延期するEU法案(通称「Stop the Clock指令」)が可決されました。(関連情報はEUサステナビリティ オムニバス法案による簡素化を参照してください。)
企業はこのようなインパクトの大きい規制とその変更の動向を注視し、適時対応できるよう準備をしておくことが推奨されます。
一貫した遵法管理の重要性
法令順守が責任ある企業にとって必須であるのは、今さら言うまでもないことですが、どのように遵法を担保するのか、その管理手法は企業によって多様です。トップダウン型のグローバル企業であれば、世界各地で同じ法令管理システムを導入し、各事業部門、各事業所に定期的に報告させ、本社の監査部門が数年に一度監査をして確認をするという手法をとるでしょう。一方、ボトムアップ型、事業部の独立性が強い企業では、遵法は各事業部、各拠点に任せており、本社は定期的に報告を受けるという形態も多いようです。どちらが圧倒的に優れているということはありませんが、昨今の法令動向と社会的要請を考えると、今後は企業全体で一貫した取り組みが重要になると考えられます。何故なら、ひとたび大きな事故や遵法違反がある国の拠点で起こると、影響はその企業全体に及びます。本社組織は、そのリスクを特定し予防していなかったとしてガバナンスが問われる可能性もあります。
遵法管理の進め方
とはいえ、グローバル企業のEHS/サステナビリティマネージャーは、多くの課題に直面しています。EHS・サステナビリティの分野は法改正の速度が速く、海外法令は現地語で理解が困難です。そして違反に対する罰則も厳格化しています。また、企業報告制度やデータと指標の第三者保証と精査が求められるなど、外的な要因が多々あります。一方、各国・拠点で管理レベルにバラつきがある、人材・リソースの欠如、非効率な管理ツールとシステム、知識経験が蓄積しないなど内部的な課題も無視できません。
下記にグローバル遵法管理の進め方について4つのポイントを挙げます。
1.グローバル法令データベースの活用:
まず、グローバルに対応する法令データベースの活用が有効です。法令データベースは本社、事業部、各拠点がアクセス可能で、互いに情報を共有できるのが望ましいといえます。各事業部、各拠点が独自に情報収集・分析するのに比べ、時間・費用が大幅に削減でき、情報の質の水準化が図れます。
2.各事業所の遵法状況の可視化:
本社リスク管理の一環として、各事業所の遵法状況を現地監査などで把握し、是正措置のサポートや追跡をしている企業は多いと思います。そのような監査は、一貫し標準化された基準に基づいて行われているでしょうか。世界各地で標準化された遵法監査基準を採用することにより、各拠点間での比較が容易になり、企業全体としての改善点が特定出来るようになります。Enhesaは、現在施行されている法的要求事項のオンラインチェックリストであるコンプライアンスインテリジェンス(CI)を提供しています。CIの法令コンテンツは400以上の国・地域をカバーし、Enhesaの分類方法と品質管理基準に基づき、標準化されています。各拠点は自分たちの事業所に適用される法令と要求事項を確認し、遵法状況を評価することができます。回答結果はダッシュボード形式で表示されるため、全体を統括する本社部門には、各拠点の遵法管理進捗状況がリアルタイムで可視化されます。可視化により、リスクを特定し、改善の取組を効率的に進めることができます。またダッシュボードを通して、本社と事業拠点とが情報を共有することで祖語のないコミュニケーションが促進されます。
3.法令動向モニタリング体制の整備:
EHS・サステナビリティ法令の新規策定や改正は各地で頻繁に行われるため、その動向を追跡する体制整備が必要です。今後導入される規制の内容を把握して、自社/自拠点への適用を評価し、準備している企業は多いと思います。しかし企業として一貫した体制が確立している会社は意外と少ないのではないでしょうか。Enhesaのレギュラトリーフォーキャスター(RF)は法案段階の情報、新規導入または改正情報をレポート形式でオンラインで提供するサービスです。これにより、将来の規制動向を理解し、備えることができます。RFは英語及び現地語で提供されるため、本社は英語で各地の法令動向を把握し、事業所の担当者は現地語で理解を深めることができます。企業のどの階層でも同じ情報にアクセスできるため、体制整備が容易になります。例えば、あるお客様は、各地の地域本社がRFを使って法令動向をモニターし、関連するレポートを事業拠点、本社に共有する役割を担っています。
4.専門家のサポート:
グローバル法令データベースとツールを活用し、自主的な遵法管理、法令対応管理を進めることができますが、その過程で直面する不明点や懸念について聞くことができる専門家が確保されていれば、 なお堅牢な管理体制となります。EHSやサステナビリティ法令について、いつでも専門家にアクセスできるのが、Enhesaサービスの大きな特徴です。データベースを利用するにあたり、Enhesaの専門家が企業に特化したEHS法令に関するお悩みや課題の解決をサポートします。ツールの効率的な使用方法や法規制調査、遵法監査など、法令データベースでは対応しきれない部分やプラスアルファで管理度を上げたいときに専門家のサポートを活用することができます。
このようにグローバルで一貫したサービスやツールを導入することで、企業はコンプライアンスリスクへの対応を一元管理し、ガバナンスを効かせた管理が可能となります。Enhesaでは、無料でサービスデモを行っておりますので、是非お気軽にお問い合わせください。